成育歯科医療研究会

本研究会は、咬合誘導研究会として1996年に発足し、
2004年から現在の名称になりました。

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会の概要

成育歯科医療とは

 しかしこのような受け皿は、かつての歯科医療体系にはありませんでした。子どもと育児世代から歯科医療職種に求められる役目を端的にまとめれば、「障害や疾患の有無にかかわらず、こどもが持つ『口』の働きが充分に活かされ、子どもの心身が健康に育つよう養育者と一緒に考え、成育・育児・子育て支援を行うこと。さらにその成果を次の世代の成育に継承していくこと。」となります。こうした協同作業が実現できれば、養育者が孤立しがちな育児環境の現代社会においても、口腔のケア(*注)から生まれたセルフケア指向が、世代を越えて継承されるメカニズムが機能すると考えます。これを「成育歯科医療」の概念として提唱します。これと相応した重要なキーワードを、次に挙げてみます。
 成育歯科医療は、従来の専門領域の口腔衛生学、小児歯科学、矯正歯科学の専門知識を平面的に集結したものではなく、さらに発達心理、言語病理、行政、教育など他の専門領域との連携が不可欠な、包括的かつ全人的な医療体系と考えられます。
 他にも、発足時より提唱されてきたように、専門職の評価指針から判別された歯科疾患や咬合分類で判別される咬合の異常ではなく、個別の背景から生まれた障害が支援対象です。エビデンスに基づいた診断や治療また情報の開示は、国民から納得の得られる医療の重要な鍵である事はいうまでもなく、また客観的な診断があってこそ、根拠ある治療が生まれ、医療連携も可能となります。しかし成育歯科医療では、診断重視から更に前進し、生活者個々の状況にあった支援案の提示が求められます。すなわち歯科疾患や形態異常への対応から、生活者が日常生活で抱える障害(生活機能障害)への対応に、活動をシフトすることが重要となります。更に言葉を替えるなら、治療は目的ではなく手段に過ぎず、生活機能の向上つまり「楽しく元気な暮らしや育ち」が目的となります。
 また成育医療に謳われるように、ライフサイクルに沿った心身の成育支援や、生物レベルのQOLではなく社会生活レベルにおけるQOLの向上も大事なテーマでしょう。その実現のためには、治療と療育の両面を有する体系で、関与する施設が単一であっても複数であっても、キュアとケアを継続する必要があります。
 従来から咬合誘導研究会で研究されてきた医療体系の趣旨に相応しい名称となりましたが、「成育歯科医療」は、一方向の医療・指導といった従来の歯科医療から、生活者の視点からの支援への変換に過ぎず、支援や連携の中では、従来の手段やそれぞれの専門性が充分に生かされる必要があります。生活者の要望に沿ったパラダイム・シフトにすぎず、従来の専門分野にとって替わる分野を提唱した訳ではではないことも、ご理解いただけると思います。

(*注)口腔のケア:器質的歯科疾患予防だけでなく、口腔機能や心と行動の成育と保全も目的としたケア(例えば、行動変容法、脱感作法、食育、発達支援など)

成育歯科医療研究会がめざすもの

 以上に述べた「成育歯科医療」の概念は、きわめて幅広い領域を包含するため、直ちに医療職のコンセンサスを得られるとは、当初は考えていませんでした。 しかし短期間のうちに、講座名として「成育」が使われるなど、社会での認知は緩やかではありますが確実に拡がっています。また、「口から育つこころと身体」のパラダイムは、少子社会における歯科医療職のアイデンティティとして理解しやすく、連携に役立っていると実感しています。
 少子社会の臨床では親の育児行動を変容強化し、セルフケア確立や治療経験を通じて子どもの自律や自立を促す支援が医療職に求められています。まさに、このパラダイムの体現が、本研究会の目標と考えています。

(文責:佐々木洋)

本研究会について

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